

戦時下で、難民状況の中で、人びとは何を食べていたのか。セルビアに住む著者が友から聞きとった食べ物と戦争の記憶。レシピつき。
卵と生クリームなしのマーブル戦争ケーキ。停電で溶けだした冷凍庫の肉で銃弾に怯えながら催すバーベキュー大会。第一次、第二次大戦、ユーゴスラビア内戦、コソボ紛争……戦争の絶えないバルカン半島に長年住む著者が戦下のレシピを集めた。食べ物とは思い出のこと。そして甦りのこと。繰り返される歴史のなかの、繰り返しのない一人ひとりの人生の記憶と記録。
2019年9月 第29回紫式部文学賞受賞
【目次】
はじめに
小さな歴史手帖 語りの声に耳をすますまえに
ジェネリカの青い実
I 第二次世界大戦の子供たち
パンの話─ユディッタ・ティモティエビッチ
僕はスマートだった─ゴイコ・スボティッチ
トランク一つの旅─アレクサンドラ=セーカ・ミトロビッチ
橋と子供─ラドミラ
II 料理とは、甦りのこと
ジャガイモと薬─ドラゴスラバ・ラタイ
母の手紙─ブラード・オバド
魚と野獣─ダルコ・ラドゥーロビッチ
パンと牛乳─リュビツァ・ミリチェビッチ
III 嵐の記憶
私は市場に─ゴルダナ・ボギーチェビッチ
僕は元気だ─スラビツァ・ブルダシュ
小鳥が木の実をついばむように─ゴルダナ=ゴガ・ケツマノビッチ
マルメロとイラクサ─ベリスラブ・ブラゴエビッチ
IV 馬の涙 コソボ・メトヒヤの女声たち
五月のある晴れた日に
小さな家、大きな食卓─ドゥシカ・ヤーショビッチ
火酒とピストル─ラトカ
逃げていく日─ミーラ、リーリャ、ビリャナ、ドゥシカ
赤く染めた卵─スターナ
雨、雨、雨だった─ふたたび、リーリャ
パンを焼く、生きていく─スラビツァ
魂の香り─コソボ・メトヒヤの女声たち
人生でいちばん大切なこと─ふたたびコソボ・メトヒヤの女声たち
右の手、左の手─ミルカ、スラビツァ、スネジャナ
V 野いちごの森へ
梨と猫
時刻表にない列車─ソフィア・ヤクシッチ
山羊と子供─ペタル・マラビッチ
チーズとジャガイモ─デサンカ・ラブナイッチ
見えないパン─ナランチャ・マラビッチ
朝の牛乳─スミリャ・エデル
ああ、あの子たち─イェレナ・スタルツ=ヤンチッチ
手紙を書いてくれ─シェキッチ村ピオニールの少年たち
パルチザン第七病院─ペタル・ラドイチッチ
大きな胡桃の木の下で─ミルカ・ラドゥーロビッチ
花と爆弾─スルジャン・ブケリッチ
サンドイッチと空き瓶─ジュルジッツァ・オストイッチ
雪と少年─シーモ・トミッチ
VI 飢餓ゆえの戦争、戦争ゆえの飢餓
小さなパン─バネ・カラノビッチ
鳩と白い花─ドラガナ・ゴレタ
食べ物という喜び─ベドラ・アルシッチ
VII 小さな料理手帖
グーラッシュ
玉ねぎしきつめ肉団子
イラクサのスープ
肉詰めパプリカ
ジャガイモ詰めパプリカ
豆スープ
肉のサルマ
セルビア・サラダ
バニラ・クッキー
マーブル戦争ケーキ
ラミザ風ユーロクリーム
セルビア料理の道具
結びにかえて 旅は終わらない
著者
山崎佳代子(やまさき かよこ)
詩人・翻訳家. 1956年生まれ, 静岡市育ち. 北海道大学露文科卒業後, サラエボ大学文学部, リュブリャナ民謡研究所留学を経て, 1981年, ベオグラードに移り住む. ベオグラード大学文学部にて博士号取得(アバンギャルド詩, 比較文学). 詩集に『みをはやみ』など, 翻訳書にダニロ・キシュ『若き日の哀しみ』など, エッセイ集に『ベオグラード日誌』など.
Kindle→https://amzn.to/4jFHsAR