

今までになかった『判断力批判』入門!
近年の再検討事項でもあるジェンダーの視点を取り入れつつ、「難解」と評判のカント美学を理解しやすいように解説。
目次
はじめに
第一章 無関心性:快の感情の分析(その一)
第二章 主観的な普遍性:快の感情の分析(その二)
第三章 目的のない合目的性:快の感情の分析(その三)
第四章 範例的な必然性:快の感情の分析(その四)
第五章 三つの原理と正当化:快の感情の正当化
おわりに
前書きなど
「さいごに」より
慶應義塾大学でカントの講義を持っていたときに、学生さんから、「『判断力批判』やカント美学の解説書や参考書にオススメのものはないですか?」というリアぺをもらいました。なので、次の回にはいくつかの本を紹介したのですが、それらの本にアクセスした学生さんからは、「価格が高い」、「難しすぎて余計わからなくなった」、「もっと安くてわかりやすいの書いてください」などのリアクションが寄せられて、現行の本には満足していない気持ちが伝わってきました(「はじめに」でも書きましたが、これは現行の解説書の質が悪いというわけではありません)。これがカント美学の解説書として本書を書こうと思い立ったきっかけです。
それと同時に、「古いカント」ではなく「新しいカント」を教えて欲しいという要望もあったので、本書では現代的な問題の一つであるジェンダーに着目して、その観点からカント美学に対して問題提起を行いました。ジェンダーに着目したのは、それが現在進行形の争点であることも理由ですが、やはりこれまで、哲学の男性中心的な日本のアカデミック業界が看過・軽視してきた論点であったからでもあります。研究者のなかにはいまだに、ジェンダーの問題を物好きがやる問題だとか特殊な問題だとか考える人がいます(しかも、悪気もなくそう考えているからたちが悪い)。しかし、この問題は、私たちのもっとも身近にある普通の問題です。そして、普通を「問題」にするのが哲学のはずです。この本を読んでくれた、とくに大学生や研究者の方には、ジェンダーと美学・哲学の問題を当たり前の問題として探求して欲しいと願っています。「美とジェンダー」については、それをテーマに詳しく論じる本を執筆しています。問題提起だけじゃ物足りないという人はぜひそちらも読んでみてください。
著者プロフィール
高木 駿 (タカギ シュン) (著/文)
1987年生まれ。北九州市立大学 基盤教育センター 准教授。一橋大学大学院 社会学研究科 博士後期課程。博士(社会学)。専門はカント美学・哲学。第14回濱田賞(日本カント協会)受賞。論文に「隠された美の家父長制 ― ジェンダーに基づくカント美学批判 」(日本カント協会『日本カント研究』第23号、2022年)、「醜さとは何か? :『判断力批判』の趣味論に基づいて 」(日本哲学会『哲学』第71号、2019年)、「趣味判断が誤るとき:『判断力批判』における情感的意識の観点から」(美学会『美学』、2017年)、ほか。本書が初の単著となる。