日本語による現代詩の最高の担い手である金時鐘の詩作品一つひとつを綿密に分析した、稀有にして無二の詩論。金時鐘のダイナミックな生涯やエッセイに依拠してその詩を読みとくのではなく、ダイナミックな詩そのものから金時鐘の「存在」を導きだし、哲学思想を媒介にして、詩人の「生」に肉薄する。
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定価=6000円+悪税
目次
序
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第一章 詩人にやってくる詩はどこからくるのか?――聞こえず見えぬものたちの真実について
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一、化石の目つき
二、破滅の瞬間を美しさと誤認する者たちよ!
三、詩はどこからやってくるのか?
四、遠く、地平線の外を巡って
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第二章 在日を生きる、詩を生きる――深淵の生が送った手紙
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一、生の大気、詩の雰囲気
二、おお、わたしは見えない、聞こえない!
三、深淵、あるいは地下から送った手紙
四、訣別し訣別して、いく
五、生きる、在日を生きる
六、存在を賭けるということ
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第三章 海のため息と帰郷の地質学――『新潟』におけるずれの存在論
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一、「そこにはいつも私がいないのである」
二、出来事的なずれ
三、存在論的なずれ
四、ずれの思惟、詩集『新潟』の編成
五、みみずから蛹へ
六、故郷の生物学、帰郷の地質学
七、海のため息
八、わたしと世界のずれ
九、存在論的分断、あるいは分断の存在論
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第四章 なくてもある町、なんでもない者たちの存在論――『猪飼野詩集』における肯定の存在論と感応の多様体
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一、「あってもないもの」と「なくてもあるもの」
二、存在の肯定と否定
三、なんでもない者たちの力
四、垂直の力と水平の力
五、感応の多様体
六、果てる在日、在日の境界
七、日日の深みと痣
八、表面の深さと深層
九、箱のなかの生と隣人の存在論
十、かげる夏、ずれの感覚
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第五章 出来事的ずれと褪せた時間――『光州詩片』における出来事と世界の思惟
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一、『光州詩片』と「光州事態」
二、出来事以前の出来事
三、事態、詩人の目に届いた場所
四、誓い、心に誓う
五、事態の諸伝言
六、事態の存在論
七、止まった時間、褪せる出来事
八、時間を消して問う
九、含蓄的出来事化
十、こともない世界と闇の特異点
十一、出来事と世界のずれ
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第六章 染みになり、化石になり――『化石の夏』におけるずれの空間と化石の時間
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一、存在論とずれ
二、はざま
三、凝固
四、染み
五、化石
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第七章 錆びる風景とずれの時間――『失くした季節』における「ときならぬ時間」の総合
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一、ずれた時間からずれの時間へ
二、帰る、止まった時間のなかに
三、季節の時間のなか
四、止まった時間の出口
五、涸れさせた時間を壊して
六、沈む時間と沈める時間
七、ずれの時間
八、時間の三つの総合
九、世界の時間と存在論的ずれ
注
訳者あとがき
著者略歴
李 珍景【著】
1963年、ソウルに生まれる。本名は、朴泰昊(パク・テホ)。ソウル大学社会学科博士課程修了。現在は、ソウル科学技術大学教授、知識共同体スユノモの「営業社員」。専門は、哲学。
著書に、『無謀なるものたちの共同体――コミューン主義の方へ』(インパクト出版会、2017)、『不穏なるものたちの存在論――人間ですらないもの、卑しいもの、取るに足らないものたちの価値と意味』(インパクト出版会、2015)など多数がある。
影本 剛【翻訳】
1986年、兵庫県に生まれる。延世大学国語国文学科博士課程修了。現在は、大学非常勤講師。専門は、朝鮮文学。
著書に、『近代朝鮮文学と民衆――三・一運動、プロレタリア、移民、動員』(春風社、2024)。
訳書に、キム・ボファ『ビジネス化する性暴力―性暴力の法市場化に抵抗する政治の再構成』(解放出版社、2024)、高秉權『黙々―聞かれなかった声とともに歩く哲学』(明石書店、2023)など、
共訳書にクォンキム・ヒョンヨン編『被害と加害のフェミニズム―#MeToo以降を展望する』(解放出版社、2023)がある。