ユーゴスラヴィア紛争からウクライナ戦争まで
政治によるプロパガンダ、性暴力、難民、戦争犯罪法廷…
普通の人びとの日常はどのように侵食され、隣人を憎むにいたるのか。
ユーゴ紛争をみつめてきたジャーナリストによる、誰もが無傷ではすまない戦争についての深い問い。
ウクライナの戦争を見守り続けてからというもの、我々は、より良い生活を求め重いリュックを背負う人々の悲痛な姿、砲撃、避難所、泣き叫ぶ声、重火器、荒廃した高層ビル群といった光景を、一九九〇年代のユーゴスラヴィア紛争と比較せざるを得ない。すべてが似ている。
実際に「同じ」なのだと考えている――政治的レトリックから恐ろしい赤裸々な日常生活に至るまで。数々の戦争シーンは再び我々に衝撃を与え、しばらく後に悲嘆をもたらすのみで、やがてその光景を日常の一部として物憂げに受け入れるようになる。
(…)
スラヴェンカ・ドラクリッチのエッセイは、深刻なテーマを直接的かつシンプルに執筆可能だと示すだけにとどまらず、反戦のあらゆる取り組みが重要であると気づかせてくれる――語り、記録し、記憶し、犠牲者の声に耳を傾け、彼らの運命を伝え、理性を育み、特に若い世代を、「我々」と「彼ら」という危険な二項対立から逃れられない民族主義から解放するために全力を尽くす必要がある。それを待つには及ばない。今すぐに行動すべきだ。この危険な分裂が解消されない限り、戦争は、目を覚ますことのできない悪夢のように永久に続きかねないのだから。
解説 マリヤ・オット・フラノリッチ
目次
序:新しい戦争はタイムマシンに乗って
まえがき
戦争がはじまるとき
熊と飼育員の物語
三羽の鶏
私たちを罪から救う怪物たち
死のクローズアップ
ラブストーリー
未来までずっと残るはずだった橋
ウィーンでクリスマス・ショッピング
他者について、三人の独白
ベルリンの冷たい風
悪党と化した知識人
沈黙を望まぬ女たち
ミロシェヴィッチとセルビア人、そしてほうれん草のクリーム煮
ビリャナ・プラヴシッチ、懺悔者にして嘘つき
決して届くことのなかった救いの手
犯罪の陰に女あり!
ラドヴァン・カラジッチvs.虫
いまだベオグラードへ旅立てない理由
誰がムラディッチの責を負うのか
「喉が渇いて死ぬなんて惨めだ」
額装された悪
聴衆へのパフォーマンス:テレビ放映されたスロボダン・プラリャクの自殺
八四番の男の子
ラトコ・ムラディッチは怪物か
森の沈黙
戦争は怪物である
恐怖のスーツケース
「あまりにうるさかったので撃ちました」
悪の凡庸さに抗う:示唆に富むドラクリッチのエッセイ♦マリヤ・オット・フラノリッチ
戦犯を待ち受けていたものは?
出典一覧
著者について
【著者】スラヴェンカ・ドラクリッチ
クロアチアのジャーナリスト、作家。1949 年アドリア海の港町リエカに生まれる。ザグレブ大学で比較文学と社会学を専攻。旧ユーゴ初のフェミニスト団体「女性と社会」を創設し、東欧初のフェミニストの本『フェミニズムの大罪』(1984 年)を発表する。ユーゴ紛争を機にスウェーデンへ移住。文学的ルポタージュ『バルカン・エクスプレス』(1993 年/ 邦訳1995年、三省堂)や『カフェ・ヨーロッパ』(1996 年/ 邦訳1998 年、恒文社)は欧米で大評判となる。ボスニア戦争時の集団レイプを題材とした小説『エス:バルカン半島をめぐる小説』(1999年)は映画化もされた。ウクライナ侵攻を受けて発表された『戦争はどこでも同じ』(2022 年)は、かつての当事者として同じ過ちを繰り返さないよう問いかける渾身の一作。各著ヨーロッパ各国をはじめ、アメリカやアジアで翻訳されている。
【訳者】栃井 裕美(とちい・ひろみ)
2003 年~2007 年セルビア共和国留学。2007 年ベオグラード大学哲学部修士課程修了。2010 年~2013 年日本学術振興会特別研究員。5 年間のシンガポール滞在の後帰国。訳書にドラクリッチ『ポスト・ヨーロッパーーー共産主義後をどう生き抜くか』(人文書院、2023年)、共著書に『学問の森へ―若き探求者による誘い』(2011年)。
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