

人生って、目を見開いてさえいれば、心躍る楽しいことに出会えるんだね――。「バナナフィッシュにうってつけの日」で自殺したグラース家の長兄シーモアが、七歳のときに家族に宛てて書いていた手紙「ハプワース」。『ライ麦畑でつかまえて』以前にホールデンを描いていた稀少な短編。その死まで続いた長い沈黙の前に、サリンジャーが生への切実な祈りをこめて発表した充実の中短編九編を収録。
目次
マディソン・アヴェニューのはずれでのささいな抵抗
ぼくはちょっとおかしい
最後の休暇の最後の日
フランスにて
このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる
他人
*
若者たち
ロイス・タゲットのロングデビュー
*
ハプワース16、1924年
訳者あとがき
対談 サリンジャーの星は出そろったのか? 金原瑞人×佐藤多佳子
著者
J・D・サリンジャー
Salinger,J.D.
(1919-2010)ニューヨーク市生れ。1940年に短編「若者たち」、1950年「エズメに――愛と汚れをこめて」(O・ヘンリー賞)を発表。1951年『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を刊行し、一躍脚光を浴びる。1953年『ナイン・ストーリーズ』刊行の後、ニューハンプシャー州コーニッシュに隠遁した。1955年ニューヨーカー誌に「フラニー」を、1957年に「ズーイ」を発表。1961年に単行本『フラニーとズーイ』を刊行した。1963年『大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモア―序章―』を刊行したが、1965年6月、ニューヨーカー誌に「ハプワース16、1924年」を発表以後、沈黙を守り続けた。
金原瑞人
カネハラ・ミズヒト
1954(昭和29)年岡山県生れ。翻訳家、英文学者。法政大学社会学部教授。エッセイ『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』『サリンジャーに、マティーニを教わった』のほか、『月と六ペンス』『人間の絆』(モーム)『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年』『彼女の思い出/逆さまの森』(サリンジャー)など訳書多数。