「アートが変化に火をつける」。本書は、多元的なアイデンティティを前提とする地域のコミュニティの複合的な差別の問題や荒廃した社会問題の克服を、壁画というアートの力によって挑んだアメリカ・フィラデルフィアの実践を紹介する。
◆目次
序言差別に抗い、差別とたたかうアート[藤川隆男]
はじめに
Ⅰ 社会の中のアートと、アートにあらわれる社会
1 パブリック・アートとは何か
2 アメリカのパブリック・アート政策の歴史
3 民衆のアート
Ⅱ 1980年代アメリカの都市空間の変容――フィラデルフィアの体験
1 アメリカ都市の脱工業化と荒廃
2 「兄弟愛の街(The City of Brotherly Love)」
1.「ロッキー」が走る街
2.シティ・メイカーズ
3.ウィルソン・グード市長――「街をきれいにしたい」
4.「反落書ネットワーク」
5.若者のエネルギー
Ⅲ 「壁画の街(The City of Murals)」
1 「反落書ネットワーク」から「ミューラル・アーツ・プログラム」へ
2 「Peace Wall(和解の壁)」――住民の宝
1.人種対立
2.結んだ手
3.壁画は住民のもの
3 根を張る――ポーチ・ライト・プログラム
1.誰のための壁画か
2.社会の問題と向き合う
3.ポーチ・ライト・プログラム
4.『ポーチ・ライト・プログラム最終評価報告』
4 たたかう壁画
1.「リンカーンの遺産」を背負う街
2.人種問題の展開――ブラック・ライブズ・マター運動
3.「もし壁画が話しかけるなら」
4.キング牧師と元受刑者
5 市民とともに――「記念碑ラボ(Monument Lab)」
6 まとめ――「アートは変化に火をつける」
Ⅳ 壁画探しの旅
1 ロサンジェルスの「偉大な壁」――SPARCを中心に
2 シカゴの「たたかう壁画」――ピルセン地域を中心に
3 メルボルン――壁画か落書か
4 ソウル、梨花洞壁画村――癒しの壁画
5 日本にも広がる壁画の世界
1.大阪・西成ウォールアートニッポン
2.福島県双葉町――「Here We Go !!!」
3.日本の壁画のまとめ
補論福島・双葉町の壁画――津波と原発事故の被災地は今
おわりに
参考文献
◆著者紹介
安井倫子(やすい・みちこ)
1945年、台湾台南市にて生まれる。1967年、神戸市外国語大学卒業後、大阪府豊中市の公立中学校英語教員。2000年、退職。1999年、大阪外国語大学国際文化学科(夜間主)卒業。2003年、大阪大学大学院文学研究科前期課程修了。2011年、同後期課程単位取得退学。2014年、同修了。博士(文学)。専門分野、アメリカ現代史、公民権運動史。
著書:『語られなかったアメリカ市民権運動史――アファーマティブ・アクションという切り札』大阪大学出版会、2016年。藤川隆男編『アニメで読む世界史』山川出版社、2011年(第8章「トム・ソーヤーの冒険――アメリカ的自由を求めて」担当)。翻訳:ジョン・C・トーピー著(藤川隆男監訳)『パスポートの発明――監視・シティズンシップ・国家』法政大学出版局、2008年(第4章担当)。A・G・ホプキンズ「19世紀のアメリカ帝国」(秋田茂編著『「大分岐」を超えて――アジアからみた19世紀論再考』ミネルヴァ書房、2018年、第3章)。A・G・ホプキンズ「『アメリカの世紀』におけるアメリカ『帝国』」『思想』2021年1月号、岩波書店。